東京地方裁判所 平成2年(ワ)1410号 判決 1992年3月13日
主文
一 被告は、原告に対し、金五一三万三八七〇円及びこれに対する平成三年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
理由
第一 請求
主文同旨
第二 事案の概要
原告は、自己が所有するマンションの専有部分についてのコンピュータソフト開発会社との間で賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結したところ、被告が正当な理由がないのに右契約を承認しなかつたために合意解約せざるを得なくなつたと主張して、被告に対し、不法行為を理由として損害賠償を請求した。
一 争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実
原告は、昭和六三年七月二八日から平成三年三月一四日まで、別紙物件目録一記載の一棟の建物(以下「本件マンション」という。)のうち同目録二記載の専有部分(以下「本件専有部分」という。)を所有し、その間被告の組合員であつた。
被告は、本件マンションの区分所有権者によつて構成され、本件マンションの敷地、共用部分の管理等を行うことを目的とする権利能力なき社団である。
二 争点
1 被告が本件賃貸借契約を承認すべき義務の有無
2 原告の損害の有無及びその額
3 被告の加害行為と原告の損害との間の因果関係の有無
第三 争点に対する判断
一 事実関係
《証拠略》を総合すれば、以下の事実が認められる。
1 本件マンションの構造及び設備等
本件マンションは、小田急線経堂駅から徒歩一分の交通至便の地にあり、昭和五一年一一月新築にかかる地下一階、地上一〇階建の鉄骨鉄筋コンクリート造で、各階一〇戸前後合計一一〇戸ほどの専有部分を有する大規模区分所有建物であるが、構造上、二階以下が店舗用に、地上三階以上が住居用にそれぞれ適した構造となつており、右店舗用部分と居住用部分は非常用階段を除いては出入口が別個になつており、居住用エレベーターは店舗利用者は使用できないしくみとなつている。
本件マンションの三階以上は、本件専有部分を除くと、事務所として使用されている三室を除いて居住用に使用されている。右三室は、本件マンション販売直後から事務所として使用されているものであり、会計事務所、大学教員の研究室及び芸能人のスケジュール管理室としてそれぞれ使用されてきたものである。
なお、昭和五八年ころ、本件マンションの一室が学習塾として使用されていたところ、原告を含む本件マンション居住者が右学習塾の閉鎖を要求し、右学習塾は閉鎖された。また、指圧マッサージ師及び旅行代理店が、その使用部分が居住用であることを理由に退去した例がある。
2 新規約発効以前の本件専有部分の使用状況
原告は、昭和五三年二月に、同人が代表者をしている西和興産株式会社名義で本件マンション二階の店舗部分を購入し、以来同所でレストランを経営してきているが、昭和五三年四月、吉田文子から八階にある本件専有部分を右レストラン従業員の休憩用事務所兼倉庫という目的で賃借し、事実上事務所として使用してきたが、昭和六三年七月二八日、吉田文子から本件専有部分を購入し、同年八月二六日、その旨の登記をした。
原告は、本件専有部分を利用して長期にわたり安定した賃料収入を得ることとし、平成元年一月ころから不動産会社を通じて本件専有部分を事務所用の物件として賃借人の募集を始め、チラシの配布、雑誌への広告掲載等を行い、同年三月一五日、有限会社福陽商会(以下「福陽商会」という。)に対し、本件専有部分を賃料月額二〇万円、賃貸期間二年間、賃貸目的「住居兼事務所」という条件で貸し渡し、右会社は、翌日から芸能プロダクションの事務所として使用を開始した。
なお、原告と福陽商会間の右賃貸借契約は、より広い事務所が見つかつたとの理由で、福陽商会の申出により、同年七月一〇日、合意解除された。
3 規約改正及び新規約の発効
被告は、平成元年三月一二日、被告総会(以下「新規約制定総会」という。)において管理規約を改正し、その一二条において、専有部分の用法に関しては住居部分(三階以上の建物部分をいう。)を事務所に使用する場合は被告の承認を受けなければならない旨規定し(以下、改正された管理規約を「新規約」といい、改正以前に効力を有していたと認められる管理規約を「旧規約」という。)、右の新規約は同年四月一日付けで発効する旨決定した。
右総会の際、規約改正前に既に占有者の使用目的が事務所となつている住居部分については、旧規約では住居部分を事務所として使用することも認めていたのでそのまま事務所として使用することを承認し、以後は事務所を増やさないとの方針が承認された。
4 本件賃貸借契約の締結
原告は、同年九月七日、株式会社アドックス(以下「アドックス」という。)との間で、本件専有部分を賃料月額二〇万円、権利金四〇万円、賃貸期間二年間、賃貸目的「住居・事務所」という条件で賃貸する旨の本件賃貸借契約を締結した。
ちなみに、アドックスは、コンピュータ-ソフトの開発を業とする会社であり、従前は新宿区において二、三名の女性従業員が二台ほどのパソコンを利用して営業している程度の小規模の会社であつた。
5 被告の承認拒絶及び本件賃貸借契約の合意解約
原告は、新規約の規定に従い、同月六日及び一〇日、被告に対し、本件専有部分の事務所としての使用について承認を要求したが、被告は、同月一六日の理事会において右承認を拒絶することを決定し、その旨を同月一八日付けで原告に通知した。
被告が右のとおり承認を拒絶し、また本件専有部分の電話回線の増設を認めない姿勢だつたので、原告は、仮にアドックスを入居させてもアドックスに迷惑をかけることになると判断し、右の事情をアドックスに伝え、原告とアドックスは、同年九月二〇日、本件賃貸借契約を合意解約した。
原告は、同年一一月一四日、被告に対し、右承認拒絶の理由を問いただしたところ、被告は、原告に対し、右承認拒絶の理由として、新規約制定総会において本件専有部分についての事務所としての使用が承認されていないこと、今後事務所としての使用部分が増えるとスプリンクラー等の消防設備等の設置義務が生じる等の不都合があること等を指摘した。
6 損害の発生
原告は、昭和六三年八月、本件専有部分の購入資金を銀行から借り入れたのであるが、その返済として一か月約二〇万円を銀行に支払わなければならなかつたため、アドックスからの賃料収入を右支払いに充当する予定であつた。
原告は、本件専有部分を事務所として使用できるようにするための改修工事を実施し、平成元年一一月一〇日、工事業者に対して右改修工事費用として八五万円を支払つた。
原告は、本件賃貸借契約を合意解約した後、賃貸条件を変更し、賃料を月額一七万五〇〇〇円とし、被告の態度を考慮し、使用目的を居住用として本件専有部分の賃借人を募集し、平成元年一一月から平成二年六月にかけて住宅情報誌にその旨の広告を掲載し、あるいはチラシを配る等の募集活動を行つたが、結局賃借人は見つからなかつた(なお、右広告費用は一回八〇〇〇円であつた。)。
右のような状況の中で、原告は、借入金の金利負担に耐えかね、平成三年三月一四日、小林和子との間で本件専有部分についての売買契約をし締結し、同年五月一四日、その旨の登記がされ、原告は売買代金を取得した。その際、原告は、本件専有部分の内装が事務所用になつていたので、住居用に改装するための費用として一〇〇万円を売却代金から値引きした。
二 被告が本件賃貸借契約を承認すべき義務の有無について
1 原告の主張
被告は、前記新規約制定総会において、新規約の発効時期を同年四月一日と決定し、規約改正前に既に占有者の使用目的が事務所となつている住居部分についてはそのまま事務所としての使用を承認する旨の方針を承認したものであるところ、原告は、同年三月一五日、福陽商会との間で本件専有部分を右会社に住居兼事務所の使用目的で賃貸する契約を締結し、新規約が発効した時点では本件専有部分は事務所として使用されていた。
したがつて、本件専有部分を事務所として使用できるという原告の既得権は保護されるべきであるのに、被告は、原告の右既得権を承知しながら故意に本件賃貸借契約を承認せず、アドックスの入居を拒否し、原告の所有権を違法に侵害した。
2 被告の反論
(一) 被告が本件専有部分を事務所として使用することを承認しないのは、次の理由による。すなわち、昭和五二年八月ころ、マンション部総会と称する集会が開かれ、右集会に出席した三階以上の区分所有者及び居住者全員は、本件マンションの三階以上の建物部分について、当時事務所として使用されていた三室を除いては事務所としての使用を認めず、住居専用に限る旨合意し、その後、右合意は、本件マンションの管理運営における慣行となり、新規約が発効する平成元年四月一日まで効力を有した。
原告にアドックスを斡旋した有限会社セントラル総合企画代表取締役原田秀孝は右合意の存在を熟知しており、不動産業者として物件説明を行う義務を法律上負つているのであるから、原告も右合意の存在を知つていたはずである。
(二) また、原告が平成元年三月一五日に本件専有部分を福陽商会に賃貸した事実はないのであるから、同年四月一日の時点で本件専有部分は事務所として使用されておらず、したがつて、被告に本件賃貸借契約を承認する義務はない。
(三) 原告が同年三月一五日に本件専有部分を福陽商会に賃貸したとしても、右契約における本件専有部分の使用目的は店舗であつたから、旧規約二六条一号により右契約の締結及びそれに基づく使用は許されない。
(四) 新規約一二条において事務所としての使用に被告の承認を要求した趣旨は、本件マンションの三階以上の居住用部分の事務所としての使用を制限することで、防火設備、電気設備等につき問題が生じることを回避し、さらに、居住環境の悪化を防止することにある。
アドックスは、コンピュータ会社であり、大規模な電気設備を必要とするからその事務所としての使用は不適当であり、被告が本件賃貸借契約を承認しなかつたことは、新規約一二条の趣旨に照らし、正当な理由に基づくものであり有効である。
(五) 原告が福陽商会との間で本件専有部分につき賃貸借契約を締結したのは新規約制定総会の開催日の三日後の平成元年三月一五日であり、右総会において原告の代理人として出席した原告の妻が事務所の増設を認めない旨の決議に賛同したことも考えれば、新規約発効直前に事務所使用を開始することは信義則に反し、したがつて、被告が本件賃貸借契約を承認しなかつたのは正当な理由に基づくものであり有効である。
3 裁判所の判断
(一) 被告は、昭和五二年八月、本件マンションの三階以上の建物部分について事務所としての使用を認めない旨の合意が成立したと反論する。
しかし、被告が主張する右合意は各区分所有者の所有権を大幅に制限する内容であるにもかかわらず、右集会あるいは合意の存在を裏付ける客観的な証拠は存在しない。かえつて、その体裁及び内容に照らして本件マンションの販売時に販売業者が作成し、全購入者の承諾を得て有効に成立したものと推認できる管理規約が存在すること、また、新規約付則六条には新規約発効時までは旧規約が効力を有することを前提とするかの如き記載があること、さらに、被告の原告に対する通知書には被告組合員の自主的判断で昭和五五年ころから本件マンションの事務所としての使用を抑制してきた旨の記載があること等の事情を総合すれば、被告主張の右合意の存在を認めることはできず、したがつて、被告の反論(一)は採用できない。
証人松原は被告の主張に沿う証言をするが、右証言は伝聞にとどまり、前記の各事情からすれば右証言は採用できない。
また、前記のとおり学習塾閉鎖等の事実があつたとしても、いずれも多数人の出入りする特殊な使用形態であり、これをもつて直ちに事務所としての使用を制限する合意の存在を裏付けるものとはいえない。
(二) 被告は、原告と福陽商会間の賃貸借契約が存在せず、仮に存在したとしても店舗目的で賃貸されたものであると反論する。
しかし、原告と福陽商会間の賃貸借契約書には、賃貸の目的として住居兼事務所と記載されており、右契約締結前の平成元年二月二二日付け賃貸物件の雑誌の広告には、本件専有部分は事務所として紹介されており、原告の供述もこれに沿うものであるから、前記認定のとおり、原告は、平成元年三月一五日、福陽商会に対し、本件専有部分を住居兼事務所の目的で貸し渡したと認めるのが相当である。
したがつて、被告の反論(二)及び(三)は、いずれも前提を欠き、採用できない。
(三) 新規約一二条一項は、区分所有者が住居部分を事務所に使用する場合には被告の承認を受けなければならない旨規定しているが、被告が右の承認を与えるか否かは、住居部分を事務所に使用しようとする区分所有者に重大な影響を及ぼすのであるから、その判断に当たつては、事務所としての使用を制限することにより全体の区分所有者が受ける利益と、事務所としての使用を制限される一部の区分所有者が受ける不利益とを比較考量して決定すべきである。
これを本件についてみると、たしかに、事務所としての使用を無制限に放任した場合は、床の荷重の問題のほか、消防設備あるいは電話設備等の改修工事の要否等、波及する影響は大きく、費用負担の軽減及び居住環境の悪化防止等の観点からも、その制限には一般論として合理性を是認できないわけではない。
しかし、本件においては、マンション分譲時に成立した旧規約の二六条に専有部分のうち住居部分は住居又は事務所以外の用に供してはならない旨の定めがあり、本件専有部分の属する三階以上の建物部分についても事務所としての使用が許容されていたと認められるのであるから、区分所有者にとつてその同意なくして専有部分を事務所として使用することが禁止されることは所有権に対する重大な制約となることはいうまでもないところである。
特に、原告は、今回の規約改正の一〇年以上前から本件専有部分を賃借して事務所としての使用を開始し、二年余り前にはこれを購入し、右規約改正の一か月以上前から事務所用の物件として賃借人を募集し、新規約発効時には賃借人が本件専有部分を現実に事務所として使用していたのであるから、その既得権を奪われることによる原告の不利益は極めて大きいといわざるを得ない。しかも、賃借人であるアドックスは、コンピューターソフトの開発を業とする会社で、従業員が二、三名という小規模な会社にすぎず、その入居を認めることにより床の荷重の問題が生じたり、あるいは消防設備等を設置することが不可欠となるかは疑問の余地がないではなく、また、本件専有部分を事務所として使用することにより直ちに著しく居住環境が悪化するとも思えないのであつて、事務所としての使用を認めることによる被害が重大なものとはいいがたい。
右の双方の利害状況を比較考量すれば、本件の承認拒絶により原告が受ける不利益は専有部分の所有権者である原告にとつて受忍限度を越えるものと認められるから、被告は、本件賃貸借契約を承認する義務を負つていたものと解するのが相当である。
したがつて、被告は、本件賃貸借契約の承認を拒絶することにより、原告の所有権を違法に侵害したものと認められる。
この点に関する被告の反論(四)は採用できない。
(四) 被告は、原告がいわば滑り込みで福陽商会と賃貸借契約を締結し、事務所としての使用を開始したことは信義則に反すると反論する。
たしかに、原告が福陽商会との間で賃貸借契約を締結したのは、新規約制定総会の開催日の三日後であるが、原告は同年一月ころから事務所としての使用を前提として賃借人を募集していたのであり、しかも、新規約が効力を生ずるのは同年四月一日となつていたのであるから原告が福陽商会との間で賃貸借契約を締結したことに違法な点はないというべきであり、右賃貸借契約締結が信義則に反するとはいえない。
また、右総会に原告の代理人として出席した原告の妻が事務所の増設を認めない旨の決議に賛同したとしても、右総会においては規約改正前に占有者の使用目的が事務所となつている住居部分についてはそのまま事務所としての使用を承認する方針が承認されたのであり、しかも、新規約の発効が同年四月一日となつていた以上、原告の妻が原告についてはいずれにせよ事務所としての使用が許されると解したとすれば何ら非難すべき点はないし、また、同女が右決議の内容を被告主張のような意味で理解していたか疑問なしとしないのであり、右事実をもつて原告が事務所としての使用を利益を放棄したと解することはできない。
したがつて、被告の反論(五)は採用できない。
三 損害の有無及びその額について
1 原告の主張
原告は、被告の承認拒絶により次の損害を被つた。
本件賃貸借契約に基づき得べかりし賃料額 三八八万三八七〇円
本件賃貸借契約に基づき得べかりし権利金額 四〇万円
本件専有部分の改修工事費用額八五万円
2 被告の反論
(一) 本件専有部分は、建築構造上、居住用として設計、建築されているため居住用として賃貸しても事務所用として賃貸しても賃料に差異はなく、本件マンションの近隣の家賃の相場においても両者に差異はない。
したがつて、原告は、本件専有部分を居住用として自由に賃貸することにより、一か月二〇万円の賃料と四〇万円の権利金を取得できるのであるから、原告に損害はない。
(二) 原告は、新規約制定総会において事務所の増設は認めない旨の決議がされたことを知つていたのであるから、本件賃貸借契約についても被告の承認が得られないことを承知していたはずである。それにもかかわらず、原告は敢えて本件賃貸借契約を締結したのであるから、被告が承認しなかつたことによる損害は原告が負担すべきである。
3 裁判所の判断
(一) 原告は、被告の承認拒絶により、平成元年一〇月一日から平成三年五月一三日までの間の賃料相当額三八八万三八七〇円、権利金相当額四〇万円及び改修工事費用額八五万円の損害を受けたと認められる。
右損害のうち権利金相当額四〇万円については、本件賃貸借契約の契約書には権利金の記載がないが、原告が出した広告には礼金二か月分とあり、賃貸借契約においてしばしば敷金と同額の礼金の授受が行われることに照らせば、本件賃貸借契約において四〇万円の権利金を交付する旨の合意があつたと認めるのが相当である。
また、右損害のうち改修工事費用額八五万円を原告が現実に支払つたのは本件賃貸借契約合意解約後であるが、右改修工事の見積りは平成元年九月二日に提出されており、右合意解約時には既に改修工事が進行中であつたと推測されるから、改修工事費用額八五万円は本件承認拒絶による損害と認められる。
(二) 被告は、原告が本件専有部分を居住用として賃貸することで事務所として賃貸した場合と同額の賃料等を取得できる以上、原告に損害はないと反論する。
しかし、前記認定のとおり、原告は、本件賃貸借契約合意解約後、本件専有部分を居住用として賃貸しようと努力したにもかかわらず、賃借人を見つけることができなかつたのであつて、ことさら原告が賃貸の努力を怠り、損害を拡大させたような事情は認められないのであるから、被告の右反論は採用できない。
また、被告は、原告が本件賃貸借契約について被告の承認が得られないことを承知していた以上、本件の損害は原告が負担すべきであると反論する。
しかし、原告が本件賃貸借契約について被告の承認が得られないことを承知していたというような事実は認められないから、被告の反論は前提を欠き採用できない。
四 被告の加害行為と損害との間の因果関係の有無について
1 被告の反論
原告が本件賃貸借契約に基づいて賃料及び権利金を取得できなかつたとしても、それは原告が本件賃貸借契約を合意解約したことに起因するのであるから、原告の損害と被告が右契約を承認しなかつたこととの間には因果関係がない。
2 裁判所の判断
被告が本件マンションの管理において極めて重要な役割を果たしていることにかんがみると、被告がアドックスの事務所使用を承認しない状況のもとで、アドックスが強引に入居したとしても、その業務に支障が生ずることが当然予想される。
したがつて、右のような状況において原告が本件賃貸借契約を解約したことはやむを得ない処置であつたと考えられる。そうであれば、被告の承認拒絶と損害の発生との間には因果関係があることが認められ、たとえ両者の間に原告の賃貸借契約解約という行為が介在していても、そのことをもつて右因果関係の存在には影響を与えない。
第四 結語
右のとおり、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石垣君雄 裁判官 木村元昭 裁判官 古谷恭一郎)